狂人

小さい頃から、自分は人と違うと感じていた。

 

他人の思っていることがわかる子どもだったので、「あぁ、この人は今こう考えている」と思いながら、いつも映画の観客のような気分で生きていた。

 

脳みその作りも人とはまるで違うと感じていた。

私の頭の中にはいつもいろんな考えが渦巻いていて、ちょっとしたきっかけでいろんな記憶がバチバチと音を立ててくっ付き、私を圧倒した。

だから、物事を感じる深さが周りの人たちとはまるで違うということに気付いていた。

 

私は出来の悪い子だということにも気付いていた。

成績は普通より少しいいくらいだったが、何かずば抜けたものはひとつもなかった。

自分は何をしても人並み以上にはならないと気付き、周囲からなんでも卒なくこなせる子だと思われていることを知りながら、本当はなんにもできない頭の悪い自分を密かに恥じていた。

 

両親にすら、いや、両親にこそかもしれないが、本当の自分を偽って生きるのが小さい頃から当たり前だった。

そうしていろんなことへの気力を失っていった。

 

 

気力を失っていったのは自己防衛でもある。

大人に近づけば近づくほど、頭の中の記憶は蓄積されていって、ささいなことで起こる脳内の化学反応が苦痛になっていった。

こどものころ大好きだった小説やアニメ、漫画、音楽も、日増しに苦痛になった。

 

感情が少しでも揺さぶられれば、いろんなことがフラッシュバックして感情の波に溺れる。

溺れるのがこわいのだ。いつ岸に上がれるかわからないから。 

 

私は頭がおかしいんだ、普通の人と脳みそを取り替えたら世界はどんなふうに見えるんだろう。小さい頃からずっと思っていた。

 

 

25歳になった私は、ラジオで流れてきた音楽のドラムを聴いただけで、散歩中にやさしい風が吹いただけで、夕立ちが涼しげな音で通り過ぎただけで、

頭の中に溢れ出す25年分の記憶の爆発に耐えるために立ち止まって足を踏ん張らなければいけない。考えないようにしても、勝手に流れ込んできて止められない。

 

私はいまだに、弱くて出来の悪い、普通じゃない自分を嘘でひた隠しにして、強くて鈍感な人を演じ続けている。

 

いつまで持つだろうか、と毎日怯えながら。