母には譲れないことがある。そのひとつが「娘(つまり私)はブサイクだ」ということだ。
私は実際にはめちゃくちゃブサイクなわけでもなく、かといって美人でもない。わりと普通の見た目だ。ただ、母は私が絶対的なブサイクの出来損ないだと信じている。
これから、母が私の容姿や身体的特徴について、私が本当に小さかった頃から今に至るまで、事あるごとに述べてきた事を列挙する。
- 髪の毛。太くて針金のような髪。床に落ちると気持ち悪い。(母は稀に見る天然パーマのチリチリ頭のなので、髪にかなりのコンプレックスがあるようだ。しかし私は幼い頃、天然パーマこそ選ばれし者だけの美しい特徴で、私の髪質はとても残念だと思い込まされてきた)
- 眉毛。ゲジゲジの太眉でかわいそう。
- 目。小さくて一重でかわいそう。(たしかに子どもの頃の写真を見ると目が細い。当時の私は一重=悪口だと思っていたので、小学校の友達に一重羨ましいと言われて激怒した。)
- 鼻。だんごっ鼻でかわいそう。笑うと横に広がるから、笑わないほうがいい。
- 歯。とんでもない出っ歯だとのこと。しょっちゅう父と母に笑われていた。大人になって歯列矯正を始めたら、あんたって歯にめちゃくちゃ金かけてるよね。前回やってた矯正は無駄だったの?などとしょっちゅう言ってくる。自分が散々笑いものにしてきたことは忘れたようだ。
- 唇。分厚いたらこ唇でかわいそう。
- 顔。死んだ魚のような顔をしていると、本当に魚の腐乱死体を見たような顔をしながら言われたものだ。幼稚園児の私に、魚は死んだら水槽に逆さまになって浮かぶんだよ、あんたはそんな顔をしている。とご丁寧に説明してくれた。
- 首。なんか変な模様が見えるらしい。母が小学生の頃、首元が小汚い友達がいたのを思い出すらしい。
- 肌。ザラザラした鮫肌で気持ち悪い、とよく腕を擦りあわされたものだ。
- 手の爪。母は自分の手になぜかものすごく自信があるようで、自分の指は白魚のようで、爪は美しいカーブを描いている、ということを繰り返し自慢してくる。一方私の爪はベターッッとしてのっぺりして、かわいそうだとのこと。実際、私は母よりもかなり指が細く、大人になってから指輪のサイズに困る、という話をしたら逆ギレされた。
- 鳩尾。これも小学生のとき、心臓病の友達の鳩尾がすごく窪んでいたらしい。それに似てるので、なんか病気があるんじゃない?と言われていた。
- 脚。脚が太いと小さい頃からずっと言われてきた。お友達と並んで歩いたのを後ろから見ていて、〇〇ちゃんの脚は細いのにあなたの脚があまりにも太くてびっくりした、などと言われたものだ。小学校高学年になったあたりから、友達に脚が細いと言われるようになってたまげた。
- 足の形。ベターッッとした扁平足。(母の外反母趾のよく足と並べられて、比べられた。)
そういうわけで私はごくごく最近まで自分のことをバケモノだと思っていた。大人になって、綺麗だとか顔がいいと言われ始めて本当にたまげたものだ。(それはたまたまメイクとか光の加減のおかげであって、私の顔は決して美人ではない)
母の言い分はいつもこうだ。自分はこんなに美しいのに、娘のあなたはこんなにブサイクでかわいそう。
私はいつもかわいそう、恥ずかしいと言われてきた。だから幼い頃からいつも自分が恥ずかしかったし、今も自分が生きていることが本当に恥ずかしい。
母がなんで私の容姿をここまで貶したのか、今はよく分かる。母は三姉妹の真ん中で産まれた。姉は外国人のような顔立ちの美人だ。そして妹も顔が整っている。近所でもかわいい子供として有名だったらしい。
一方、母は正直飛び抜けた美人ではない。おまけに激しい天然パーマで目立つ。美人の姉と妹に挟まれて、親からも親戚からも近所の人からも比較されて育ったのだろう。気の毒な話だ。
だから、ブサイクな子供が産まれてきて喜んだ。何も知らない我が子になら、思う存分マウントが取れる。私はこんなに美しいのに、あなたはこんなにブサイクでかわいそう...母自身がずっとされてきたことの復讐に、私はうってつけだったのだ。
母の子どもの頃の写真を、たまたま母の実家で見つけたことがある。私にそっくりだった。今思い出しても気持ち悪いし忌々しい。母は私が産まれてからずっと、そんな気持ちで私を見ていたのかもしれない。
子どもの頃は、母のことを美人だと思っていた。そう思い込まされていたからだ。けど、大人になって客観的に母の顔を見ると、かなり平均的だ。美人でもブスでもない。普通だ。
幼い頃、親に容姿をからかわれたときの私は、傷ついていることを悟られないように、取り繕った歪んだ笑顔で彼らと一緒に笑っていた。(母だけでなく父も一緒に笑っていたから、私は本当にどうしようもないブサイクなんだと信じて疑わなかった)
大人になって、いまだに事あるごとに私の容姿を貶してくる母を聞き流しながら、私たちはバケモノ親子だなと思う。母の全身に回った恥や嫉妬の毒は、もう私にも手遅れなレベルで回っている。母が私を頭のてっぺんからつま先まで貶したように、私も私の頭のてっぺんからつま先まで、存在の全てを恥じていて、この世から跡形もなく消え去れたらどんなにいいかと思う。